なぜリチウムイオン電池の安全性が問われるのか?

2025.07.12 蓄電池 ブログ 管理人

リチウムイオン電池の安全性が話題に上る背景には、そのエネルギー密度の高さと、過去に発生した発火・発煙事故の報道があります。スマートフォンやノートパソコン、電気自動車(EV)など、私たちの身の回りの多くの製品で採用されていますが、その便利さの裏には、化学的なリスクが内在しています。

 根本的なリスク:「熱暴走」

リチウムイオン電池の最大のリスクは**「熱暴走(ねつぼうそう)」**と呼ばれる現象です。これは、何らかの原因で電池内部の温度が異常上昇し、その熱がさらに化学反応を加速させ、連鎖的に温度が上昇し続ける状態を指します。

熱暴走に至る主な原因

 * 内部短絡(ショート): 電池の正極と負極を隔てている「セパレータ」という薄い膜が損傷し、内部で電気が直接流れてしまう状態です。製造時の微細な不純物の混入、外部からの強い衝撃や釘刺し、あるいは劣化によって発生する可能性があります。

 * 過充電: 定められた電圧以上に充電してしまうことです。負極でリチウムが結晶化(デンドライト)し、それが成長してセパレータを突き破り、内部短絡を引き起こす原因となります。

 * 過放電: 電圧が下がりすぎた状態で放置され、内部の電極構造が破壊されることで、その後の充電時に危険な状態になることがあります。

 * 外部からの加熱: 火災など、外部から高温にさらされることで、内部の化学反応が不安定になり、熱暴走の引き金となります。

熱暴走が発生すると、電池は数百度という高温に達し、内部で可燃性ガスが発生します。このガスに引火することで、発火や破裂に至る危険性があるのです。この根本的なリスクがあるからこそ、メーカーや業界は安全性を確保するために、血の滲むような努力と技術開発を積み重ねてきました。

 「大丈夫」と言える理由:幾重にも張り巡らされた安全対策

家庭用蓄電池のような大型のシステムは、スマートフォンなどの小型バッテリーとは比較にならないほど、高度で多層的な安全対策が施されています。これを「保護の階層(Defense in Depth)」と呼び、一つの安全対策が破られても、次の対策が機能することで、最終的な事故を防ぐ設計思想です。

 第1階層:セルレベルの安全性向上

蓄電池の最小単位である「セル」そのものを、より安全にするための技術です。

 * 材料の改良:

   * セパレータの強化: 熱に強く、物理的な強度が高いセラミックコートセパレータなどが開発され、内部短絡のリスクを大幅に低減しています。高温になると膜の孔が閉じてイオンの動きを止め、反応を抑制する機能を持つものもあります。

   * 電解液の難燃化: 従来、電解液には可燃性の有機溶剤が使われていましたが、燃えにくい添加剤を加えるなどの改良が進んでいます。将来的には、可燃性の液体を一切使わない「全固体電池」が究極の安全策として期待されています。

   * 電極材の安定化: 熱的に安定した正極材料(リン酸鉄リチウム:LFPなど)の採用が進んでいます。LFPは、一般的な三元系(NMC)に比べてエネルギー密度はやや劣りますが、熱暴走が起きにくく、非常に安全性が高いことで知られ、定置用蓄電池で広く採用されています。

 * 構造的な安全装置:

   * ガス排出弁: 異常時に内部の圧力が上昇した場合、ガスを安全に外部へ放出して破裂を防ぐ弁が設けられています。

   * CID (Current Interrupt Device): 内部圧力の上昇を検知して、強制的に電流を遮断するヒューズのような機構です。

 第2階層:モジュール・パックレベルの管理と保護

複数のセルを組み合わせた「モジュール」、さらにそれをまとめた「パック」の段階では、電子的な制御が安全の要となります。

 * BMS (バッテリーマネジメントシステム) の役割:

   BMSは蓄電池の「頭脳」であり、安全性を司る最も重要な部分です。24時間365日、バッテリーの状態を監視し、危険を未然に防ぎます。

   * 電圧監視: 全てのセルの電圧を個別に監視し、過充電や過放電にならないよう厳密にコントロールします。一部のセルだけでも異常な電圧になれば、システム全体を安全に停止させます。

   * 電流監視: 想定を超える大きな電流(過電流)が流れていないかを監視します。短絡(ショート)時などに発生する大電流を瞬時に検知し、回路を遮断します。

   * 温度監視: 各所に配置された温度センサーで、セルの温度を常に監視しています。異常な温度上昇を検知した場合は、冷却ファンを強めたり、充放電を制限・停止したりします。

   * セルバランシング: 複数のセルを使っていると、それぞれの劣化具合によって性能にばらつき(=不均一)が生じます。BMSは、各セルの充電状態を均一に保つ「セルバランシング機能」を持ち、特定のセルだけに負荷が集中するのを防ぎ、全体の寿命と安全性を高めます。

   * 異常検知と記録: 万が一異常が発生した際には、その内容を記録し、エラーコードを表示して利用者に知らせます。この記録は、後のメンテナンスや原因究究明に役立ちます。

 * 熱管理(サーマルマネジメント):

   BMSによる監視だけでなく、物理的な熱対策も重要です。家庭用蓄電池では、主に空冷ファンによって内部の熱を排出し、常に最適な温度範囲(一般的に15℃~35℃程度)に保つよう設計されています。大規模な産業用システムでは、水冷や専用の冷媒を用いることで、より厳密な温度管理を行っています。

 * 物理的な保護:

   セルやモジュールは、衝撃や水、埃から守るための堅牢な筐体(エンクロージャー)に収められています。この筐体は、万が一内部で発火しても、外部に燃え広がりにくい難燃性の素材で作られていることがほとんどです。

 第3階層:システム・設置レベルでの安全性

蓄電池システム全体、そしてそれを設置する環境においても、安全対策が講じられています。

 * 認証と規格:

   信頼できる蓄電池システムは、必ず公的な安全規格の認証を取得しています。国際的には**IEC (国際電気標準会議)やUL (Underwriters Laboratories)**の規格が有名です。日本では、JIS (日本産業規格)や、電気用品安全法に基づくSマーク、そして消防法の規制など、複数の法律や規格で安全性が担保されています。これらの規格は、製品の設計だけでなく、製造工程の品質管理、異常時を想定した過酷な試験(釘刺し、圧壊、過充電、外部火災など)をクリアしなければ取得できません。

   * 例:UL9540A: これは蓄電池の熱暴走延焼評価試験の規格で、一つのセルが熱暴走を起こした際に、隣接するセルやモジュール、さらにはシステム全体へと火災が延焼しないかを確認する非常に厳しいテストです。この認証は、システムレベルでの安全性の高い証明となります。

 * 専門家による適切な設置:

   家庭用蓄電池の安全性は、製品の性能だけでなく、「誰が」「どのように」設置するかによっても大きく左右されます。メーカーが認定した専門の施工業者は、以下のような点を遵守して設置を行います。

   * 設置場所の選定: 直射日光や高温多湿を避け、十分な換気が確保できる場所を選びます。また、塩害地域ではそれに対応した製品や設置方法が求められます。

   * 確実な配線と接続: 規定の太さの電線を使い、接続部の緩みがないよう確実に施工します。不適切な配線は、発熱や火災の原因となります。

   * アース(接地)工事: 万が一の漏電時に、感電や火災を防ぐためのアース工事を確実に行います。

 * 消防法による規制:

   一定容量(4800Ah・セル以上)の蓄電池設備は消防法上の「蓄電池設備」と見なされ、設置場所の壁や天井を不燃材にすることや、点検・換気設備の設置などが義務付けられています。家庭用蓄電池の多くはこの容量未満で設計されていますが、規制の趣旨を汲んだ安全設計がなされています。

利用者が気をつけるべきこと

これだけ多くの安全対策が施されていますが、利用者の側でも安全性を維持するために協力すべき点があります。

 * 信頼できるメーカー・製品の選定: 国際規格や日本の規格(Sマークなど)を取得している、実績のあるメーカーの製品を選びましょう。極端に安価なノーブランド品は、安全対策が不十分な可能性があります。

 * 専門業者による設置: 購入費用を抑えるためにDIYで設置したり、無資格の業者に依頼したりすることは絶対に避けてください。メーカーの保証対象外となるだけでなく、重大な事故を引き起こす原因となります。

 * 定期的なメンテナンス: メーカーが推奨する定期点検を受けましょう。専門家がシステムの動作状況や劣化具合を確認し、問題を早期に発見できます。

 * 異常時の対応: 蓄電池から異音・異臭がする、エラー表示が消えない、本体が異常に熱いなどの場合は、すぐに使用を中止し、販売店やメーカーのサポートセンターに連絡してください。

 * 物理的な衝撃を与えない: 本体に物をぶつけたり、上に重いものを載せたりしないでください。

 まとめ:リスクは管理され、安全性は確保されている

リチウムイオン蓄電池には、化学的な特性に由来する「熱暴走」という根本的なリスクが存在します。しかし、そのリスクを前提として、

 * セルレベルでの材料・構造の改良

 * BMSによる常時監視と電子制御

 * 厳格な国際・国内規格による認証

 * 専門家による適切な施工と管理

といった、何重ものセーフティネットが張り巡らされています。これは、航空機が多くの冗長性(フェイルセーフ)を持たせることで高い安全性を確保しているのと同じ思想です。

過去の事故の教訓は絶えず製品開発にフィードバックされ、現在の蓄電池の安全性は数年前に比べて格段に向上しています。特に、安全性を重視したリン酸鉄リチウム(LFP)系のセルと、高性能なBMSを組み合わせた現代の家庭用蓄電池は、正しく使用する限りにおいて、そのリスクは社会的に受容可能なレベルまで十分に低減されていると言えるでしょう。

したがって、「リチウムイオン電池を使った蓄電池は本当に大丈夫?」という問いに対しては、**「はい、業界全体の厳しい取り組みによって、その安全性は非常に高いレベルで確保されています」**と答えることができます。過度に恐れるのではなく、その仕組みと正しい使い方を理解し、信頼できる製品を適切に導入することが重要です。

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